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札幌高等裁判所 昭和55年(ネ)114号 判決

昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件控訴人・昭和五五年(ネ)第二六六号反訴事件原告(第一審原告) 富永恒広

昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件被控訴人(第一審被告) 梶川昭子

昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件参加人・同年(ネ)第二六六号反訴事件被告(当審参加人) 梶川千賀子 外一名

主文

一  昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件、昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件につき

1  原判決主文第二項を取消す。

2  原判決別紙物件目録記載一の土地と同目録記載二の土地との境界は、原判決別紙図面(一)のDD′点を結んだ直線であること及び原判決別紙物件目録記載一の土地と同目録記載三の土地との境界は原判決別紙図面(一)のD′CBA点を順次直線で結んだ線であることをそれぞれ確定する。

3  第一審原告の本件控訴中その余の部分を棄却する。

二  昭和五五年(ネ)第二六六号当審反訴請求事件につき第一審原告の反訴請求をいずれも棄却する。

三  訴訟の総費用につき

原審における訴訟費用は、これを三分し、その二を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とし、当審における訴訟費用のうち第一審原告と第一審被告間に生じたものはこれを二分し、その一を第一審原告の、その余を第一審被告の各負担とし、第一審原告と当審参加人ら間に生じたものは第一審原告の負担とする。

事実

第一申立

一  昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件

1  第一審原告

(一) 原判決を取消す。

(二)(1)  原判決別紙物件目録記載四の土地につき、第一審原告が所有権を有することを確認する。

(2)  第一審被告は第一審原告に対し、同目録記載六の倉庫部分を収去して同目録記載四の土地を明渡し、昭和三四年八月一日から右明渡ずみまで月額二九二円の割合による金員を支払え。

(三) 原判決別紙物件目録記載一の土地と同目録記載二の土地との境界は原判決別紙図面(一)のイ、ロ点を直線で結んだ線であること及び同目録記載一の土地と同目録記載三の土地との境界は同図面(一)のロ、ハ、ニ、ホの各点を順次直線で結んだ線であることを確定する。

(四) 訴訟費用は第一、第二審とも第一審被告の負担とする。

との判決を求める。

2  第一審被告

本件控訴を棄却するとの判決を求める。

二  昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件

1  当審参加人ら

主文第一項2同旨及び参加費用は第一審原告の負担とするとの判決を求める。

2  第一審原告

前記一、1、(三)同旨及び参加費用は当審参加人らの負担とするとの判決を求める。

三  昭和五五年(ネ)第二六六号共同訴訟参加事件に対する反訴請求事件

1  第一審原告

前記一、1、(二)、(1) と同旨及び当審参加人らは第一審原告に対し、原判決別紙物件目録記載六の倉庫部分を収去して同目録記載四の土地を明渡し、かつ各自昭和三四年八月一日から右明渡ずみまで月額二九二円の割合による金員を支払え、当審反訴費用は当審参加人らの負担とするとの判決を求める。

2  当審参加人ら

主文第二項同旨及び当審反訴費用は第一審原告の負担とするとの判決を求める。

第二主張

一  昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件

当事者双方の主張は、次の通り付加するほかは原判決事実摘示の通りであるから、これを引用する(但し、原判決二枚目裏一四行目「三八年」を「三四年」と、四枚目表七行目及び五枚目表三行目「査定図」を各「補正境界査定図」と訂正する。)。

(第一審原告)

1(一) 本件土地(一)ないし(三)は、もと三石郡三石村大字三石村三番地の土地の一部であつたところ、昭和六年一一月六日、同土地は三番地の一ないし一一に分筆申告され、本件土地(一)ないし(三)は三番地の二の一筆の土地となつた(乙第一号証)。

右分筆は、後記(三)の土地連絡調査とは関係なく、従前から存した土地台帳附図に基づきなされたものであるが、当時の右土地台帳附図は現存しない。

(二) 右分筆時における三番地の二の土地とその東側隣地(当時の三番地の三、現在の一七番)との境界線は未測定線で図上記入された不正確なものであつた。

(三) 北海道は、昭和五年度から六年度にかけて土地連絡調査を実施し、右調査に基づいて、昭和八年に、右三番地の二の土地についても境界査定図が作成されたが(甲第一八号証の二A図)、同図面においても、三番地の二の土地の東側境界線は調査されず、前記(二)の未測定境界線が、そのまま右境界査定図に嵌入されている。

(四) その後、右三番地の二の土地は六番に地番が変更され、更に昭和二五年五月二日本件土地(一)ないし(三)に分筆されたが、その際作成された分筆図(甲第一九号証の二)は前記(三)の境界査定図を基本として作成されたから、同図面と同様に不正確なものであつた。右分筆図が前記境界査定図に基づき作成されたものであることは、右査定図によつて本件土地(一)、(二)の北側国道に面する間口を図上測定すると二三・二間(四二・一七メートル)であり、右分筆図によつて図上測定すると二三・四間(四二・五四メートル)でほぼ一致することからも明らかである。

(五) 北海道は、昭和二五年一一月に至り、本件土地(一)ないし(三)及び一七番の土地並びにその周辺土地の実測をして補正境界査定図(甲第一八号証の二B図)を作成したが、これにより、はじめて本件土地(二)、(三)と東側隣地一七番土地との境界線が確定し、本件土地(一)、(二)の北側国道に面する間口は二一・四三間(三八・九六メートル)となり、これに伴い前記不正確な分筆図の本件土地(一)と本件土地(二)及び(三)の分筆境界線は西側に移動して、修正され、その結果本件土地(二)の北側間口は昭和二五年五月の分筆の際の測量に従つて七・二間)一三・〇八メートル)、据置地であつた本件(一)の北側間口は一四・二三間(二五・八七メートル)と修正されて確定した。

右により確定した境界線が第一審原告主張の原判決別紙図面(一)のイロハニホの各点を順次直線で結んだ線である。

2 原審において、本件係争土地の賃料相当損害金の月額を五三二円八〇銭と主張したが、右土地の面積は六四・三八平方メートル(一九・四七七坪)であるところ、賃料相当損害金は三・三平方メートル当り月額一五円であるから、前記金額を二九二円と改めて、請求の趣旨を減縮する。

3 後記第一審被告の主張3(一)の事実は認める。

4 第一審被告の取得時効の抗弁に対する答弁及び仮定再抗弁

(一) 訴外梶川正日が、第一審被告主張のころ本件土地(一)及び本件倉庫を買受けて本件係争土地の占有を開始し、第一審被告及び当審参加人らが右梶川正日の権利を各三分の一の割合によつて相続して取得し、右占有を承継したことは認めるが、その余は争う。

(二) 第一審原告は、昭和四五年六月一二日、第一審被告に対し、浦河簡易裁判所に本訴を提起したことにより、第一審被告主張の取得時効は中断した。

(第一審被告)

1 第一審原告の主張1に対する答弁

(一) 1(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実中、前段は認め、後段は否認する。

(四) 同(四)の事実中、第一審原告主張の昭和二五年五月の分筆図が境界査定図を基本に作成されたが故に不正確であるとの事実は否認し、その余は認める。

(五) 同(五)の事実中、第一審原告主張の通り北海道が補正境界査定図を作成したこと、同図面によれば本件土地(一)及び(二)の北側国道に面する間口が二一・四三間(三八・九六メートル)になることは認めるが、その余は否認する。補正境界査定図の作成により境界線が移動するものではない。

2 原判決事実摘示中第二の(反訴について)のうち二、4の第一審原告の主張(原判決四枚目裏七行目から同五枚目裏一〇行目まで)につき、第一審被告は次の通り答弁する。

(一) 右4の前文の主張は争う。境界線は原判決主文第二項記載のとおりである。

(二) 同4(一)の事実中、登記簿上の面積の表示は認めるが、その余は否認する。

(三) 同4(二)の事実中、六番の土地の国道に面した間口が補正境界査定図において二一・四三間、それ以前においては二三・四間と表示されていることは認めるが、その余は否認する。

3 原判決事実摘示中第二の(反訴について)のうち一の請求原因(原判決三枚目裏一行目から同四枚目表一三行目まで)の訂正及び撤回

(一) 右一の1中本件土地(一)の所有者に関する主張を、第一審被告及び当審参加人らの三名が各三分の一の割合による持分で共有している、と改める。

(二) 同3(四)の主張を撤回する。

4 取得時効の抗弁及び第一審原告の再抗弁に対する答弁

(一) 取得時効の仮定抗弁

(1)  訴外梶川正日は、昭和三七年九月三〇日(登記簿上の記載は三一日)、訴外三島賢治から原判決添付物件目録記載四の土地(本件係争土地)を本件土地(一)及び本件倉庫と共に買受け、本件倉庫を所有することにより本件係争土地の占有を開始し、第一審被告及び当審参加人らは、昭和四三年一二月六日、持分三分の一の割合により右梶川正日の権利を共同相続し、本件係争土地の占有を承継した。

(2)  よつて、右占有の始め善意にして過失がなかつたから、昭和四七年九月三〇日の経過により、本件係争土地を時効取得した。

(二) 第一審原告がその主張の訴を提起したことは認めるがその余は争う。

二  昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件

(当審参加人ら)

1 当審参加人らは、本件土地(一)を、第一審被告と持分三分の一の割合で共有しており、第一審原告は同土地に隣接する本件土地(二)及び(三)を所有している。

2 第一審原告及び第一審被告間には、第一審被告を原審反訴原告、第一審原告を原審反訴被告とする右各土地についての境界確定訴訟が、当審に係属している(昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件における原審反訴請求事件)。

3 参加人らは、右昭和五一年(ネ)第一五九号事件の原審及び当審における第一審被告の主張及び答弁をすべて引用する。

4 よつて当審参加人らは、本件土地(一)の第一審被告との共有者として、民事訴訟法七五条により、右昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件に共同訴訟参加し、第一申立、二、1の判決を求める。

(第一審原告)

1 当審参加人らの右主張1及び2の事実は認める。

2 同3の主張につき、昭和五一年(ネ)第一五九号事件の原審及び当審における第一審原告の主張及び答弁を引用する。

3 よつて、第一申立、二、2の判決を求める。

三  昭和五五年(ネ)第二六六号共同訴訟参加事件に対する反訴事件

(第一審原告)

1 第一審原告は本件土地(二)及び(三)を所有しているところ、当審参加人らは第一審被告と共に本件倉庫(原判決物件目録記載五)を持分三分の一の割合で共有し、本件倉庫係争部分(原判決物件目録記載六)により本件係争土地(原判決物件目録記載四部分)を占有している。

2 その他昭和五一年(ネ)第一五九号事件の原審及び当審における第一審原告の主張を引用する。

3 よつて、第一審原告は、当審参加人らが右昭和五一年(ネ)第一五九号事件につき共同訴訟参加してきた(前記昭和五五年(ネ)第一一四号)ことに基づいて同参加人らに対し、反訴を提起し第一申立、三、1の判決を求める。

(当審参加人ら)

1 第一審原告の右主張1中本件係争土地が本件土地(二)及び(三)の一部であることは否認しその余は認める。本件係争土地は本件土地(一)の一部である。

2 同2の主張につき、昭和五一年(ネ)第一五九号事件の原審及び当審における第一審被告の主張及び答弁を引用する。

3 よつて、第一申立、三、2の判決を求める。

第三証拠〈省略〉

理由

第一昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件

一  当事者双方の主張に対する当裁判所の判断は、次の通り訂正、付加するほかは原判決がその理由において説示するところと同一であるから、これを引用する。

1  原判決七枚目表一一行目の「四」の次に「(同号証の二ないし四につき原本の存在を含む)」を加え、同枚目裏五行目の「二二号証」を「二一号証」と、八枚目表一四行目の「二九日」を「一九日」と、同裏三行目の「三一日」を「三〇日」と、同一〇枚目表終りから三行目の「北西」を「北側」と各訂正し、同一一枚目裏終りから六行目の「(なお、」から同一二枚目裏二行目の「る。)」までの括弧書き部分を削る。同裏末行の「、右(二)、」から同一三枚目表四行目の「結局、」まで削り、「等を斟酌すると、右分筆図によつて分筆した線即ち」を加える。同表一四行目の「右図面」の前に「第一審原告は」を加え、同一四枚目裏一行目から二行目にわたる「いるから」を「いるのであるから」と訂正し、同一四行目の「本件土地(二)」を「本件土地(三)」と改める。

2  成立に争いない甲第一、第二、第一八号証の一、二、第二二号証、乙第一ないし第四号証、第九ないし第一一号証、第一四、第二〇号証、第二八ないし第三〇号証、第三一号証、原本の存在及びその成立に争いのない甲第一九号証の二ないし四、原審証人桜井睦郎、同金沢一雄、同細道勇吉の各証言、当審における第一審原・被告各本人尋問の結果によれば、本件土地(一)ないし(三)、三石郡三石町字本町一七番(以下単に一七番という)の土地についての権利の移転、地番の変更、分筆の推移、本件倉庫についての権利移転などは次の通りであることが認められ(一部分は当事者間に争いない事実も含む)、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件土地(一)ないし(三)及び右(二)(三)の土地の東側隣地である一七番の公衆用道路は、いずれも、昭和六年当時、その当時の三番地(三石郡三石村大字三石村三番地)の土地の一部であり、訴外小林正太郎の所有であつた。

(二) 右小林正太郎は、昭和六年一一月六日右三番地の土地を同番地の一ないし一一に分筆申告し(乙第一号証)、昭和七年二月一八日その旨の分筆登記を経由したが、右により本件土地(一)ないし(三)は三番地の二の一筆の土地となり、一七番の公衆用道路は同番地の三の土地(ただし、当時、登記簿上の地目は宅地であつたが、その現況は既に道路であり、登記上道路に地目変更されたのは昭和二六年一〇月二五日である)になつた。

(三) 昭和五年度から昭和六年度にかけて、北海道が右三番地の土地につき、土地連絡調査を実施したが、昭和八年八月一五日、右調査に基づき、三番地の二及び三の土地を含む三石郡三石村大字三石村の境界査定図(甲第一八号証の二A図、乙第二二号証の三、第二三号証の一)が作成された。

(四) 昭和一一年四月一日、右土地のうち三番地の二の土地(本件土地(一)ないし(三))は三石郡三石村字本町六番地に、三番地の三の土地(一七番の土地)は同一七番地に、各字及び地番が変更された。

(五) その後、訴外三島賢蔵は、昭和二〇年四月五日、右六番地の土地所有権を売買により取得し、昭和二五年五月二日、右土地を分筆することとし、前記(三)の境界査定図を基礎として分筆図(乙第二号証、第一八号証、甲第一九号証の二)を作成し、それを添附のうえ本件土地(一)ないし(三)の分筆を申告し、昭和二九年五月八日分筆登記を経由した。右分筆手続において、本件土地(一)と同(二)及び(三)の土地の境界は、原判決添附別紙図面(一)のDD′点及びD′CBA点を各順次直線で結んだ線と定めた(右事実は、右分筆申告添附図(乙第二号証、第一八号証、甲第一九号証の二)及びそれに基づく測量図(乙第二八ないし第三〇号証)によつて明らかであるが、更に、本件土地(一)ないし(三)の地上に建築された建物特に本件倉庫の位置(原判決理由第一、一、3)からもこれを肯定することができる)。

(六) 昭和二一年八月一日、前記一七番地の土地は第一審原告が売買により所有権を取得したが、同人は前記(三)の境界査定図に記入された右土地の境界と現地が一致しないとして、北海道に対し、右境界査定図の補正を要求し、北海道において調査測量の結果昭和二五年一二月ころ、右土地の形状・位置を補正した補正境界査定図(甲第一八号証の二B図、第一九号証の三、四、乙第二五号証の一も同じ図面である。)を作成した。次いで、右一七番地の土地は、昭和二六年二月二三日第一審原告から三石郡三石町に売渡され、同年一〇月二五日その旨の登記及び地目を道路に変更する旨の登記が各経由された。

(七) その後、昭和三四年五月一九日競落許可決定をもつて、本件土地(一)は訴外三島賢治に、本件土地(二)及び(三)は第一審原告にそれぞれ所有権が移転され、同年七月二二日その旨の登記が経由された。更に、右本件土地(一)は、昭和三七年九月末日ころ右三島賢治から訴外梶川正日に売渡されて同年一〇月二六日所有権移転登記が経由され、昭和四三年一二月六日に第一審被告及び当審参加人らが各持分三分の一の割合で右梶川正日を相続し、昭和四五年七月一六日所有権移転登記を経由した。

(八) 本件倉庫(原判決別紙物件目録記載五)は、昭和二一年六月二八日保存登記されているが、三島賢蔵が同日よりも前の同月二二日これを売買により取得し同月二八日所有権移転登記を経由した。従つて、前説示の通り同人は、昭和二五年五月二日前記六番地の土地を本件土地(一)ないし(三)に分筆し、昭和二九年五月八日その旨の登記を経由したが、それらの手続がなされた当時本件倉庫及び本件土地(一)ないし(三)はいずれも三島賢蔵の所有であつたものである。その後昭和三四年八月一八日後藤邦治が競落許可決定により本件倉庫の所有権を取得して同年一〇月一〇日その旨の登記を経由し、昭和三七年九月三〇日ごろ梶川正日が右後藤邦治から本件倉庫を売買により所有権取得して同年一〇月二六日その旨の登記を経由し、昭和四三年一二月六日に第一審被告及び当審参加人らが各持分三分の一の割合で右梶川正日を相続し、昭和四五年七月一六日本件倉庫につきその旨の登記を経由した。

3  以上の事実及び前記引用の原判決説示の事実によれば、昭和六年当時、本件土地(一)ないし(三)の分筆前の土地である三番地の二の土地と、地目は宅地であるが現況道路である一七番の土地はいずれも訴外小林正太郎の所有に属しており、右両土地の境界は同人により同年一一月六日の分筆申告と昭和七年二月一八日のその旨の分筆登記の経由により形成され、更に、その後右本件土地(一)ないし(三)の分筆前の土地である六番地の土地の所有者になつた三島賢蔵が、昭和二五年五月二日本件土地(一)ないし(三)につきその境界を定めて分筆申告し昭和二九年五月八日その旨の分筆登記を経由したことにより右本件土地(一)ないし(三)相互間の境界も形成されるに至つたが、その各境界は原判決主文第二項掲記の通りであるということができる。

4  ところで、右にみた通り、本件土地(一)ないし(三)と一七番の土地に関しては、(イ) 昭和六年一一月六日ころ作成され、後記境界査定図の作成されるまで登記所に備えつけられていた分筆申告添附図(乙第一号証、第一七号証)、(ロ) 昭和八年八月一五日ころ作成の境界査定図(甲第一八号の二A図、乙第二二号証の三、第二三号証の一)、(ハ) 昭和二五年五月二日ころ作成の右境界査定図に基づく分筆申告添附図(乙第二号証、甲第一九号証の二)、(ニ) 同年一二月ころ作成の補正境界査定図(甲第一八号証の二B図、第一九号証の三、四、乙第二五号証の一)がそれぞれ存在しているので、前記各土地の状況と右図面との関係につき検討すると、まず、右各土地の図面上の位置・形状は原判決理由第一、一、2のように推移してきていることが認められ、また前記(イ)の分筆図は、本件土地(一)ないし(三)と一七番の公衆用道路の所有者小林正太郎が右両土地を分筆し、それに伴つて定めた境界を図面上に表示したものであり、同(ハ)の分筆図は、本件土地(一)ないし(三)の所有者である三島賢蔵が右土地を分筆し、それに伴つて定めた境界を図面上に表示したものであり、同(ロ)の境界査定図は、甲第一八号証の一、二、第二二号証、乙第二号証、証人桜井睦郎の証言によれば、北海道において土地の境界を調査し各筆ごとに位置・形状を実測するための土地連絡調査が実施された際、これに基づいて右境界査定図が作成されたが、右土地連絡調査による境界査定は、国有地と民有地の関係についてはその境界を確定する性質を有していたけれども(昭和二三年改正前の国有財産法一〇条)、民有地相互間では土地所有者立会のうえ調査・測量したもののその境界を確定するものではなく、更に右境界査定図は土地台帳附属地図(土地台帳法施行細則二条)として利用されたが、右地図としても民有地相互間の境界を確定するものとは認められず、同(ニ)の補正境界査定図も、右境界査定図と同様のものであると認められる。ところで、前認定の通り、本件土地(一)ないし(三)は現在に至るまで、一七番の公衆用道路は昭和二六年まで、それぞれ民有地であるから、前記土地連絡調査による境界査定によつて、本件土地(二)、(三)と一七番の土地との境界が確定されることはなく、また、本件土地(一)ないし(三)相互間の境界が確定されることもありえない(昭和八年の境界査定図作成当時は本件土地(一)ないし(三)の分筆はされてなく、昭和二五年一二月の補正境界査定図作成当時は右の分筆はなされていたが、同図面上に本件土地(一)ないし(三)の境界の表示がなされていないのであるから、右各境界査定は本件(一)ないし(三)の境界の確定とは関係がない)。従つて、本件土地(二)及び(三)と一七番の土地の境界が、原判決第一、一、2で説示の通り補正境界査定図上西側に移動していることが明らかであるが、同図面は本件土地(一)と同(二)及び(三)の境界に移動を生じさせるものではない。

二  以上の通りであつて、本件本訴請求については、本件全証拠によつても、本件係争土地が第一審原告の所有であると認めることができないし、原審反訴請求については、本件土地(一)と同(二)との境界は原判決別紙図面(一)のDD′点を直線で結んだ線であり、本件土地(一)と同(三)との境界は同図面(一)のD′CBA点を順次直線で結んだ線であると認めることができる(但し、第一審原・被告間でのみ右境界を確定する旨の原判決の判断の失当であることは後に説示する通りである)。

第二昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件

一  当審参加人らは、第一審原告と第一審被告間には、第一審被告が原審反訴原告、第一審原告が原審反訴被告として、本件土地(一)とそれに隣接する本件土地(二)及び(三)との境界確定訴訟が係属中のところ(前記昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件における原審反訴請求事件)、当審参加人らは右本件土地(一)を第一審被告と持分各三分の一の割合で共有しているので、民事訴訟法七五条により右昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件に共同訴訟参加し、本件土地(一)と同(二)及び(三)との境界確定を求める旨申立てるので、まず右申立の適否につき検討する。

境界の確定を求める訴は、隣接する土地の一方又は双方が数名の共有に属する場合には、共有者全員が共同してのみ訴え又は訴えられることを要する固有必要的共同訴訟である(最判昭和四六年一二月九日民集二五巻九号一四五七頁)。従つて共有者の一部の者が提起した境界確定訴訟は不適法であるが、その余の共有者が右訴訟に共同訴訟参加すれば、右訴訟の欠缺は補正されるものと解せられる(大判昭和九年七月三一日民集一三巻一四三八頁)から、右欠缺を看過してなされた第一審判決に対する控訴審においても、既に第一審において境界に関し相当程度の審理がされているため、改めて審理をつくさせるため第一審に差戻す必要はなく、しかも当事者間に異議がないと認められる場合には、前記方法による補正を認めることが、訴訟経済及び関係者の意志に合致し、しかも審級の利益を害する虞はないからこれを肯定すべきである。

ところで固有必要的共同訴訟においては請求は一個であるから、右のような場合、控訴審としては、既になされている第一審判決を取消し、改めて共有者全員の関係で判決すべきことになる。これを本件につき考えてみるに、当審参加人ら及び第一審被告が本件土地(一)を持分各三分の一の割合で共有し、第一審原告が右と隣接する本件土地(二)及び(三)を所有していること、第一審原告及び第一審被告間には、第一審被告が原審反訴原告、第一審原告が原審反訴被告として、右各土地についての境界確定訴訟(前記昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件における原審反訴請求事件)が係属していることについては、当審参加人ら、第一審原・被告間に争いがないのみならず、原審において右各土地の境界に関しては相当の審理がなされ、当審における当審参加人らの共同訴訟参加については、第一審原告及び被告に異議がないものと認められるのであるから、当審参加人らの共同訴訟参加の方法による欠缺の補正を認めることが相当である。よつて当裁判所は前記各土地の境界につき判断することとする。

二  そこで、検討するに、本件土地(一)ないし(三)の境界については、前記第一において説示した通り、本件土地(一)と同(二)との境界は原判決別紙図面(一)のDD′点を直線で結んだ線であり、本件土地(一)と同(三)との境界は同図面(一)のD′CBA点を順次直線で結んだ線であると認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

第三昭和五五年(ネ)第二六六号共同訴訟参加事件に対する反訴事件

1  第一審原告は本件土地(二)及び(三)を所有していること、当審参加人らは第一審被告と共に本件倉庫を持分三分の一の割合で共有し、右倉庫のうち本件倉庫係争部分により本件係争土地を占有していることはいずれも第一審原告及び当審参加人ら間に争いがない。

2  ところで、前記第一において説示した通り、本件全証拠によつても、本件係争土地が第一審原告の所有であると認めることができない。

第四結論

以上の通りであつて、(1)  昭和五一年(ネ)第一五九号控訴事件における第一審原告の本訴請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がなくこれを棄却した原判決は相当であつて、本件訴訟中右に関する部分は理由がないからこれを棄却することとし、(2)  同事件における第一審被告の原審反訴請求は不適法で、それを看過した原判決は不当であるから原判決主文第二項を取消したうえ、昭和五五年(ネ)第一一四号共同訴訟参加事件の提起によつて右の欠缺は補正されたものと認められるので、原審反訴事件及び共同訴訟参加事件につき、改めて本件土地(一)と同土地(二)及び(三)との境界を主文第一項2の通り確定し、(3)  昭和五五年(ネ)第二六六号共同訴訟参加事件に対する反訴事件における第一審原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担については、民事訴訟法九六条、九二条、八九条を各適用して主文の通り判決する。

(裁判官 安達昌彦 渋川満 大藤敏)

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